カップいっぱいのグリーンティー

ジャニーズWESTと神山智洋くん、ときどき日常話のブログ

スプレッドシートの女が『丘の上、ねむのき産婦人科』を観た話

本当に、人生はびっくりの連続だ。
自分の体験談が舞台のモチーフになった。こんな経験、なかなかできるものではない。今まさに私の身に起こっている出来事が戯曲になって、役者さんが演じて、それを観ることができたんだから。

DULL-COLORED POP『丘の上、ねむのき産婦人科』は、7組の男女の物語から“妊娠・出産”のリアルを描いた舞台。作・演出の谷賢一さんが実際に30人弱の経産婦・夫婦(カップル)に取材をし、リアルな体験談と実際の数字などをふんだんに盛り込んだオリジナル作品だ。
私も谷さんから取材を受けたうちの1人で、5場『スプレッドシート』のモチーフにしていただいた。「取材を受けたことも、舞台と実体験との相違も、何でも書いてもらって大丈夫です!」と谷さんからお墨付きをいただいたので(ありがたい!)、諸々書き残しておくぞ。

※かなりのネタバレを含みます。めちゃくちゃ長いです。

谷さんから取材を受ける

前もブログに書いたけど、私は妊娠・出産をしたくない女で、てらちゃん(彼氏)は子供が欲しい男だ。お互いが納得できる中間地点がなかなか見つからないため入籍延期になっており、婚約解消やお別れの可能性まである状態。どうすればいいのか分からないけど、分からないなりに2人で考え続けているという……、まぁ自分で言うのもなんだけどなかなか根気強いカップルだと思う。

取材協力者を募集しているというツイートを見かけたので、「妊婦でも経産婦でもないですが参考になりますか」と谷さんにお声掛けしたところ、是非にとのことでいろいろ話を聞いていただいた。第三者に話を聞いてもらうこと、それも男性に話を聞いてもらうのは私にとって貴重な機会で、実際すごく有益だった。話すことで自分の考えを整理できたのも良かったけど、私とてらちゃんの間に存在する問題の難しさ、答えの出なさに共感してくださったことが嬉しかった。「それ、本当にどうしたらいいか分からないですね」ということを言われたとき、ちょっとホッとしたことを覚えている。

ホッとしたのは、悩み続けてることを否定されなかったからだ。例えば、同じような状況のカップルはどうしているだろうと検索してみると、Yahoo知恵袋とか悩み相談の掲示板がヒットする。書き込まれている答えは「さっさと別れた方がいい」か「産んでみれば可愛さがわかる、子供はすばらしい」という2パターンしかない。まぁそれ以外にアドバイスできることなんて無いんだろうけど、そんなことは言われなくても分かっているわけで…。0か100かの結末なんて、絶望が上塗りされるだけなのであまり聞きたくない。それ以外ないんだとしても。

だからこそ、話し合いを続けてる私たちの状態をそのまま認めてくれた谷さんのリアクションが嬉しかった。

8月15日、Aバージョンを観劇

舞台の初日が開ける前に、Kindleで戯曲が販売されたので購入。どのタイミングで読むか悩んだけど、私の話を「かなり大きく採用した」と連絡をもらっていたので、本番を見る前に自分の部分だけ読んでみた。開いてみると、タイトルからして『スプレッドシート』だし、内容も本当に反映されていてびっくり。取材のときに自分が言った言葉も散りばめられていて、なんだかすごく不思議な気持ちになった。

当日はてらちゃんと一緒に下北沢へ。スズナリはずっと行ってみたかった劇場なので、こんな形で叶ってとても嬉しかった。この日は女性が女性を、男性が男性を演じるAバージョン。客席はほとんど埋まっていたけど、感染症対策が徹底されているので開演前もとても静かだ。『スプレッドシート』のとき、客席がどんな反応をするか見ておこうと心に決める。

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谷さんのご挨拶のあと、お芝居が始まってすぐに「あ、これは冷静に観れないかも」と思った。産婦人科の待合室。仲睦まじく赤ちゃんに笑いかける夫婦と、それに視線をやる別のカップルという構図を見ただけで涙が出てきてしまったのだ。情緒不安定か。最近、赤ちゃんを連れて幸せそうにしている人を見るだけでウルっとくる現象があるんだけど、それが爆発してしまった。子供をもつことを幸せだと思えない自分への悲しさと、てらちゃんへの申し訳なさみたいなのが渦巻いて泣いてしまうのだ。情緒不安定だ。『スプレッドシート』をちゃんと観られるか少し不安になる。

1場 ハイライト

19歳で身ごもり、金銭的にも将来のことでも悩んでいる女性。地方都市の専門学生で、小さなアパートで彼氏と同棲していて、親は頼れない。私自身も地方出身かつ母子家庭で育ったので、「彼女は私だったかもしれない」という思いとともに観た。地元を嫌っているのも同じ。

「いま子供を産んだら、この先自分がどういう風に生きて死ぬか、全部分かっちゃう」という台詞にウッとなった。高校を出てまもなく、子供を産んだらしいと噂に聞いた地元の同級生に対して、同じように思ったことがあるからだ。毎日見る景色、夫の年収、自分の年収、できる仕事、住める家、だいたい想像できる。そしてそんなの絶対嫌だと思ったから。しんどい。

3場 自由

こちらの女性はどちらかというと理想に近い。仕事に生きがいを感じていて、実際仕事ができて、積み上げてきたものがある。でも産休や育休をとることで「なめられる」のが嫌で、めちゃくちゃ無理をしている。「なめられなくない」という気持ちは私の中にもあるし、キャリアがあるからこそ他の女性社員の道を潰さないように自分が頑張りたいというのもすごく共感した。
もっと強く印象に残ったのは、「この子さえいなければ、なんて言ったから(流産したかも)」と彼女が狼狽える場面。自分の未来を見たような気がして怖くなった。「この子さえいなければ」って、私も思いそうで恐ろしい。思いたくないから、子供なんて産まない方がいい…とまた思ってしまう。ぐるぐる。

ただ、彼女の夫がどこまでも優しい人で、救いのある終わり方になっていたのでよかった。優しさの空気がてらちゃんと重なるところもあり、演じていた宮地洸成さんの台詞のトーン、声色が好きだった。

4場 ロンドン・コーリン

女子会とつわりの描写に、ヒィィィ~~って叫びたくなる。女の生きる道、過酷すぎやしないか。

家事ができてないことにイラついたり、大きな声を出したり悪態をつく夫にめっちゃ「ハ???」って思った。そういう人、めっちゃ嫌い。怖いし。でも演じていた岸田研二さんはとてもよかった。なんだコイツ!と思わせる演技力。

5場 スプレッドシート

いよいよである。周りのお客さんの反応にも注意しておこうと思っていたけど、そんな余裕は全然なかった。始まる瞬間に泣いちゃってた。何の涙かよく分からないまま、マスクがじわじわ濡れていく。

戯曲を読んだだけでは気が付かなかったけど、お芝居で観てみるとすごく面白いカップルに描かれていることが分かって嬉しくなった。ものすごいテンポで喋りまくるし、コメダ珈琲で真剣にバトルしてるのも笑える。私たちってちょっと変わってるんだなという気付き。渡邊りょうさん演じる彼氏が圧強めなのも楽しくて(てらちゃんはもう少し柔和な感じだ)、ポロポロ泣きながらふふふと笑っていた。情緒不安定か。

設定や双方の細かい意見・ディティールは違うところもあるけど、話し合ってる内容はほぼ私たちの記憶のままだ。なんとなく彼女の方が強そうなところも同じ……いや、私たちの場合は完全に私の方が強いけど(てらちゃんいつもごめん!)。ちなみにセックスの話は小声でパパッと話し合ったので、実際はあそこまで面白い議論ではなかった。でも谷さんの脚本くらいやりあっても良かったかなと思わされた(笑)。

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子供についての彼女の考え方、「生まれてこないほうがいい」というのは、まるっきり私そのもの。前のブログ<私、初めての彼氏と結婚できないかもしれない>にも書いた通りだ。織り込まれているエピソードも、ほとんど相違ない。「コップの中は不幸でいっぱい」というのも、「地獄」というのも、私が谷さんに実際に言った言葉。演じてくださった倉橋愛実さんを通してこの台詞を聞いたら、より一層悲しくて胸が詰まった。どうしてこんな言葉が出てしまう人生なんだろうなぁ……自分のことだけどさ。

特に涙が止まらなくなったのは、彼女が「子供が欲しいなら、私以外の人がいいんじゃない?」と突き放すシーン。なんて悲しい言い方をするんだとつらくなるが、これも私が実際に言った言葉だ。ひどいね。それに対して彼が「君との子供が欲しいんだ」と言ったのもノンフィクション。思い出すだけで泣けてくる。なんちゅう議論をしてんだ私たちは…。
これは実際には、2人でスプレッドシートを開いたコメダ珈琲ではなく、私の友人も交えた話し合いの席で発生したエピソード。「君との子供が欲しい」という言葉に友人はすごく感動していたけど、私はびっくりしただけで何も返せなかった。ここまで言ってもらっても意思が変わらない自分にドン引きして悲しくて、何も言葉が出なかったんだよなぁ…。重ね重ねひどい。

まさに「出口なし」なこのカップルのお話を、それでも話し合い続けるという結末にしてくださった谷さんに感謝。実際の私たちはこれからブライダルチェックを受けようと計画しているところで、まだどっちの道へも進んでいないし、お互いに理解しようと、2人が納得できる形をどうにか見つけようとしている。そしてそうやって諦めないでいられる自分たちを、私は少なからず誇りに思っている。お芝居の中の2人も、顔を突き合わせて話し合い続けていて、しかもそれをちょっと楽しそうにやってるのが嬉しかった。彼女たち、幸せになってほしいなぁ……いやいや、私らが幸せになればいいのか(笑)。

6場 ペーパームーン

いちばんチャーミングなカップル。特に妻を演じた李そじんさんが可愛かった。子供がお腹にいるとき、女は既に母親になっていて、男はまだ父親になれていない……そんなコントラストがあくまでも明るく描かれていてほっこりする。

子連れだとできないこと、諦めざるを得ないこと、どんな準備が必要か、どんなことに注意しなければならないか、具体的な言葉で語られているのもよかった。私は最近子育てメディアを手伝っているので知ってる情報が多かったけど、女性でも子供がいなければなかなか想像しにくい。子供が欲しくないと主張してる私でも、子連れが快適に過ごせる社会になってほしいと心の底から思っているので、こういう認知が進むことはとても大切だと思う。

7場 ライブ

不妊治療を続ける夫婦。治療費は高額だし、身体の負担もあるし、私にはなぜそこまでして子供が欲しいのかよく分からない。分からないけど、理由なんてなくても、説明できなくてもいい。子供が欲しくないことに理由が必要ないのと同じで。

妻が夫に「つらそうにしててくれない?」と言った気持ちは分かるなぁと思った。何よりも一番欲しいのは共感だ。

8場 昔

1971年が舞台。かつての男性たちが、妊娠・出産にかかる女性の負担についてどれほど無関心だったかが分かる。そしてそんな女性たちの間で当たり前とされていた習慣や迷信が、いかに歪だったかということにも気付かされる。

ほんの50年前のことなのに、帝王切開にものすごい偏見があることに驚いたし、「東京なら超音波で検査できる」なんていう状況にも驚いた。祖母はこういう時代に私の父を、母を産んだのか……凄いな。アフターピルが未だに薬局で買えないこととか、無痛分娩が普及しないこととか、現代の「なんでやねん」にも繋がってるような気がしてちょっとゲッソリ。

9場 未来

妊娠・出産について知識をつけていく中でずっと「男だって子供が欲しければ自分で産めるようになればいいのに」と思ってたので、そういう未来が暗示されていてとても良かった。

産める性/産めない性、産める年齢/産めない年齢、そういうのをすっかり飛び越えてしまえば、この種の憂鬱はずいぶんなくなるだろうし多くの人がハッピーになるはず。こんな未来が早く来てほしい。

パンフレットを読んで

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劇場で買ったパンフレットを読んだ。各エピソードの解説やコラムなどもあって面白い。『スプレッドシート』の解説に、「わかり合えないと諦めるのは簡単だし、幼稚だ。それでも話し続けることの方がよほど尊い」とあってまた涙があふれる。谷さん、ありがとうございます…!
全体を通して、どのカップルも匙を投げることなく「分からない」に向き合い続け、「分かりたい」と努力している姿が描かれてていいなぁと思ったんだけど、解説からもそのあたりを大切にしていたことが伝わってきて嬉しくなる。

もう1つ「うぉぉぉぉ」となったのが、脚本監修・北村紗衣先生のコラム。一語一句、「それな!!!」と叫びながら読んだ。『スプレッドシート』の彼女が何らか性暴力のトラウマを抱えていることにも触れたうえで、「でも子供が欲しくないと思うことにそういった悩みがなくても、単に面倒くさいという理由でも十分」ということを書かれていて、まったくその通りだ思った。私にとって性暴力の記憶は「子供欲しくない」と思ういくつかの要素の中のたった1つでしかなく、もちろんその影響は大きいけど、何もそれだけが原因で言ってるわけではないからだ。

「子供欲しくない、産みたくない」と女が言うと、よく投げかけられる言葉に「産んでみたら可愛いよ」とか「そのうち欲しくなるよ」というのがある。私も実際に母親や友達から言われたし、そのたびにイラついた。子供をもつこと(もちたいと思うこと)が正規ルートで、そう思わないのはおかしいという前提があるからこそこういう言葉が真っ先に出てくる。めっちゃ腹立つ。子供をもちたくない女の存在は当たり前に認められるべきだし、そこにもっともらしい理由なんて必要ないはずだ。
「子供欲しい」という人に理由は求められないのに、「子供欲しくない」という人には理由が求められる空気にものすごく怒りを感じていたこの数ヵ月だったので、北村先生がきっぱり言い切ってくださっていてスカっとした。

てらちゃんが尊い

今回、この舞台の取材に協力したり実際に観に行ったりするなかで、改めててらちゃんの懐の深さというか優しさが身に染みたのでこれも書いておきたい。さすがに惚気る。

まずそもそも、こんなパーソナルな問題を第三者に話すことを「いいんじゃない?話したら何か得るものがあるかもよ」と快諾してくれたこと。多くの人が観る舞台の題材になるかもしれないのに、「まりもちゃんが辛くならないなら全然オッケー」としてくれた優しさ。

ほとんど演劇を観たことがないのに、誘ったら「えっ!行きたい!!」と即決してくれたこと。劇場まで車を出してくれて(我が家から下北沢まではかなり遠い)、何より当日、とても楽しんで観てくれたこと。自分たちのことが語られているのも面白がってくれたし、他のエピソードもかなり興味深く受け止めているようだった。嬉しい。
終わった後も、「戯曲読みたい」「パンフ見せて」「アフタートーク一緒に観よう」と言ってくれて、男性にとってもそこそこしんどい(あるいは面倒な)テーマだろうに、ちゃんとインプットしようとしてくれたことが尊かった。

そのアフタートークでまた粋なことがあったので記録しておきたい。てらちゃんが劇団に送った感想がとても暖かい名文で、それを谷さんが読み上げて私の耳に入り、感激してまた泣いてしまうということが起きた。なんと誠実な人だろうかと思い出してまた目頭が熱くなるほどなので、リンクを置いておく。何度でも見返す。

www.youtube.com

『丘の上、ねむのき産婦人科

モチーフにしていただいたことで、『スプレッドシート』の感想を呟いてる方の意見に触れられたり、共感してくれてる人の存在に気付けたりして、これもなかなか味わえない体験だなぁとありがたく思っている。
素晴らしい作品を創ってくださった谷さんと、魅力的なお芝居を見せてくださったキャストの皆さんと、感染症対策を徹底してくださったスタッフの方々に感謝。

スズナリでの公演は8月29日まで、9月には大阪でも上演されるので、最後まで幕が開けられるように祈るばかりだ(去年からずっと、現場へ行くたびにこういう気持ちになる。コロナいい加減にして!国!政治!)。
配信もあるので、たくさんの方が観てくれるといいな。私も男女逆転のBバージョンは配信で観る予定なので楽しみ! 

公式サイト→第23回本公演『丘の上、ねむのき産婦人科』 | DULL-COLORED POP

戯曲→丘の上、ねむのき産婦人科 Kindle版
パンフレット→『丘の上、ねむのき産婦人科』公演パンフレット Kindle版